学校指定の体操服を扱う洋品店のオバチャンは優しいいい人だった。
私は腹をくくることにした。
他の人に頼んで買ってきてもらう、姉のおつかいで買いにきたと言い訳する、
等等いろいろと作戦を考えてみたが、そんな手段を講ずるよりも、何も言わず
ただ「ブルマーを下さい」とH洋品店のオバチャンに告げてみよう、と決心した。
それで、断られたら次の作戦を考えればいい。
ただあの愛想のいいオバチャンなら、そんなことにはならないんじゃないか。
夏休みも半ばになった8月のお盆前のある日、私は意を決してH洋品店を
再び訪れた。
よく晴れた暑い日だった。
ブルマーのサイズをきちんと告げること、そして代金を不足のないよう多め
に用意すること。それだけは気をつけた。
店の外から中をうかがうと、中年の女性客が、オバチャンと話をしているら
しかった。
私は店の中からは死角になる場所に自転車を移動させ、女性客が出て行くの
待つことにした。
どれくらい待っただろう。真夏の日差しが照りつけ、暑かったのをおぼえている。
おそらく10分も待っていなかったと思うが、そんなときはやたらと時間が長く
感じられる。
ようやく先客は店を後にした。
「よし。行くぞ。落着け、俺。できるだけ自然にふるまうんだぞ」
今となって女性用の下着でも店頭で買えるようになってしまった私だが、
そのときは生まれて初めて女性用の衣服を、しかもブルマーを買うのだ。
緊張と不安で吐きそうな気分だった。
ガッツを出して、店のトビラを開ける。本当はにこやかに「こんにちわー」
などと言いたいところだが、声が出ない。
店に入るとオバチャンはレジの前に立っていて「はい、いらっしゃい」
と迎えてくれた。
「自然な感じで明るく『ブルマー下さい』って言うんだ」
しかし、なかなかそんな風にはいかない。
やっと絞出したような調子で私は口を開いた。
「えーと、N中の女子のブルマーを下さい・・・。サイズはMサイズです・・・」
声がかすれている。心臓が胸を突破りそうなほど鼓動が強い。
しかし、初めて「N中のブルマー」という言葉を口にしたとき、得体の知れ
ない興奮が腹の底から湧上がってきた。
「そうだよ。いつもR子さんがはいているあのブルマーだよ」